彼岸・対岸

もう一つのブログとパラレルな世界についてのブログ

季節は夏から秋に変わった。ある夜、一人、田の中の道を歩む男の姿があった。

この地方の山間では稲を刈り取ったあと田に水が張られる。そのような田の一枚一枚に、今夜は殊に明るく、月影が映えていた。

月明かりと稲穂の匂いを含んだ微風は、ここまで夜道を急ぐ男の背中を心強く後押しした。それでも今夜はこの辺りのどこか安全に身を横たえることのできる場所で、明日の朝まで待とうと思った。立ち止まってあたりをぐるりと見渡したとき、心細い夜道を女が一人、彼の向かおうとしていた先から歩いてくるのが見えた。その女は歩きつつ杖をついていた。

このような夜分に女が一人で歩む姿に不審を覚えながらも、男は、彼女に今晩を越す宿を尋ねようと思った。女もまた、そのような男にあたかも自分から用事でもあるかのように、杖を突きつつ、まっすぐと向かってくるのであった。