彼岸・対岸

もう一つのブログとパラレルな世界についてのブログ

ヤマノシヌイは、山の木の上から、モノたちが木の下を通り過ぎていくのを、見ていた。 モノたちは、そんなヤマノシヌイに見られていることをつゆ知らず、下を向いて歩いていた。そんな一人一人のモノたちを、日がな一日眺めていたヤマノシヌイは、モノたちと…

男が、杖ついた中年の女に気づいてから、彼女が目の前にたどり着くその時まで、男は、その場所から一歩も前に進もうとはしなかった。男にはそれがなぜかわからない。女も、さもそれが当然であるかのように、男とほんの数歩の距離まで来ると、じっと男に目を…

季節は夏から秋に変わった。ある夜、一人、田の中の道を歩む男の姿があった。 この地方の山間では稲を刈り取ったあと田に水が張られる。そのような田の一枚一枚に、今夜は殊に明るく、月影が映えていた。 月明かりと稲穂の匂いを含んだ微風は、ここまで夜道…

河口がどれだけ広くても、川は、そのみなもとをたずねれば、深い山奥のせせらぎからはじまる。そのような場所にはきっと、地元の人しか参らないような、ひそやかな「お宮さん」がある。もう20年以上も前になるが、高校生だった私は、自転車で川をたどった先…